大判例

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札幌高等裁判所 昭和27(う)81 高裁判例

主 文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮六月に処する。

但し被告人に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は第一、二審共被告人の負担とする。

理 由

本件控訴趣意は末尾に添附した検察官事務取扱副検事由中悟作成名義の控訴趣意

書と題する書面記載の通りであるからここにこれを引用する。

右控訴趣意第一点の(一)について、

原判決は、本件公訴事実中重過失に因る傷害の点を無罪とした理由に於て、被告

人は自動車を運転した経験が殆ど無いにもかかわらず、且つ酒に酔い正常な運転が

できないにもかかわらず、昭和二十六年七月二十四日午後六時三十分頃、普通貨物

自動車北第九〇二号を運転して幅員約四メートルの函館市a町通の右側を時速約

五、六キロメートルの速度で進行中、同町b番地先に立つている電柱に右自動車の

右側荷台を接触させあわててハンドルを左に切りこれを返さなかつたのでそのまま

一直線に進行し約一五、六メートル先きのA方玄関先に右自動車の左バンバーを激

突させてこれを破壊し同所にあつた石炭箱を突飛ばしたうえその隣家B方台所角に

衝突させた。その際右B方台所「流し」の前で炊事をしていたCはこの衝激に驚き

その湯から入口に向つて逃げ出そうとしたところその場に顛倒して左ひざと左手を

台所の床についた。しかるにCが左ひざをついたところに偶々右自動車衝突の際の

衝激により台所の棚から落ちて壊れたびんの破片があつたため右Cは左膝に通院加

療約二週間を要する傷害を受けたとの事実をこれを認めた証拠と共に摘示し而して

右の事実関係においては被告人がその運転する自動車をC方に激突せしめたこと

と、Cが右のような傷害を受けたこととの間に、相当因果関係が在るとは認め難い

から無罪だというの<要旨第一>である。しかし原判決が右事実を認めた証拠として

示した原審証人Cに対する尋問調書によると、被害</要旨第一>者である同人は「私

が流し場に立つて仕事をして居たら大きな音と一緒に「流し」の下に何かがぶつか

りさくりを破つてめり込んで来たような感じを受け、同時に私は後ろに押されたよ

うになつで背の方にあつた御飯を炊くストーブに尻のあたりをぶつけ、この突然の

出来事に出口の方に避けようとして転んでしまい、左膝を床に突き、台所の棚に置

いてあつた硝子壜の落ちて壊れた破片で怪我をしましたが、何せよトラックの激突

と私の転んだことは殆んど同時であつたので、私としてはこの時棚のものがどのよ

うに落ちて来たかわかりませんと供述しており、これを原審の検証調書の記載並び

に附属図画に対照すると、前記自動車激突の反動でB方の硝子壜は破壊しCはその

上に顛倒して膝を突いて前記負傷の結果を生じた事実関係は明かであつて、そして

この一連の事実関係は殆んど同時に惹き起された瞬間的の出来事であることが見ら

れる。しからば前記原判決に摘示する被告人の本件自動車運転は、右Cの負傷に対

する被告人の重大な過失であり、これと右Cの負傷この間に因果の連絡あることを

認めるのが相当である。しかるに原判決は被告人の本件自動車を運転してB方に激

突させたこととCの前記負傷との間にいわゆる相当因果関係があるとは認められな

いとして無罪の言渡をしたのは法律の解釈ないし適用を誤まつたものでその誤りは

判決に影響を及ぼするとは明かであるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由が

ある。

右控訴趣意第一点の(二)について、

所論は、本件における被告人の道路交通取締法違反と重過失傷害の点は刑法第五

十四条第一項前段の、一個の行為で数個の罪名に触れる場合に該当する、然るに原

判決はこれを併合罪の関係あるものとして、その重過失傷害の点につき無罪の言渡

をしたのは法令の適用を誤つたものであるという。

<要旨第二>しかし、自動車の無免許運転行為或は酒に醉い正常な運転ができない

虞がある運転行為等道路交通取締法で</要旨第二>禁止されている自動車の運転行為

と、自動車運転上重大な過失に因り人を死傷に致した行為とはその行為の内容を異

にするものと解すべきを以て、本件において被告人が法令に定められた運転の資格

を持たず、且つ酒に醉い正常な運転ができない虞あるのに自動車を運転した行為は

前に説明した自動車運転上重大な過失に因つてCに傷害を加えた行為とは別個の行

為であり、これを自動車運転による一箇の行為が数個の罪名に触れる場合に該当す

るものとは謂われない。原判決は本件公訴事実における被告人の道路交通取締法違

反の点を有罪とし、重過失傷害の点を無罪として主文においてその言渡をなし両者

を併合罪の関係に立つものと認めたことは正当であり、所論のような違法はない。

論旨は理由がない。

以上によりその余の論旨(量刑不当)に対する判断を省き、刑事訴訟法第三百九

十七条により原判決を破棄し、同法第四百条但し書に従い被告事件につき更に判決

する。

原判決の確定した原判示の罪となるべき事実に道路交通取締法第七条第一項第二

項第二号第三号、第二十八条第一号、罰金等臨時措置法第二条、第四条を、原判決

の無罪の理由において摘示したその認定事実に刑法第二百十一条後段、罰金等臨時

措置法第二条、第三条を各適用し、前者につき懲役刑を、後者につき禁錮刑を各選

択し、両者は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条により

重き後者の刑に併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人を禁錮六月に処し、情状に

より刑法第二十五条を適用して被告人に対し本裁判確定の日から三年間右刑の執行

を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により第一、二審共被告人に

負担させることとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 原和雄 判事 小坂長四郎 判事 東徹)

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